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マーケティングデューデリジェンス|M&A・投資で成果を左右する市場・顧客分析の重要性
宮本将弘
企業のM&Aや事業投資において、成功の鍵を握るのが「マーケティングデューデリジェンス」です。財務面だけでなく、市場環境や競合状況、顧客の実態を正しく把握できているかが、買収後の成否を大きく左右します。
本記事では、マーケティングデューデリジェンスの基本から、実施プロセス、分析項目、成功事例までを詳しく解説。M&Aや新規事業投資を検討する企業の経営層・マーケティング責任者が押さえておくべきポイントをまとめます。
▼この記事の監修/執筆者
株式会社NoSHAPE コンテンツマーケティング事業部 責任者。大手企業でWebサービス開発・マーケティングを経て、事業会社でマネージャー/責任者として事業推進やデジタルマーケティングを担当。これまでに100サイト以上・5,000本超の記事制作に関わり、BtoB・BtoCを問わずSEO・コンテンツマーケティング全般を支援している。
マーケティングデューデリジェンス(DD)とは
M&Aや投資案件において、買収対象企業の価値を正確に見極めるためには、財務・法務面だけでなく、市場での競争力や顧客基盤の実態を深く理解することが不可欠です。
一般的には「コマーシャル・デューデリジェンス(Commercial DD)」とも呼ばれ、数字には表れにくい「市場価値」や「成長可能性」を定量・定性の両面から検証する重要なプロセスです。
マーケティングデューデリジェンスは、数字には表れにくい「市場価値」と「成長の可能性」を可視化するための重要なプロセスです。
市場分析から顧客基盤評価、競合戦略検証まで、
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デューデリジェンスとの違い
一般的なデューデリジェンス(DD)では、財務デューデリジェンス(財務DD)や法務デューデリジェンス(法務DD)が中心となります。財務DDは貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を精査し、企業の収益性や財務健全性を評価します。法務DDは契約関係や訴訟リスク、知的財産権などの法的側面を検証します。
一方、マーケティングデューデリジェンスは、これらとは異なる視点から企業価値を評価します。
財務DD・法務DDとの比較
財務・法務DDとマーケティングDDの主な違いを以下に示します。
- 財務DDは過去の数字から企業の健全性を判断しますが、マーケティングDDは将来の成長可能性を市場や顧客の視点から評価します
- 法務DDはリスク回避の観点が強い一方、マーケティングDDは機会の発見と成長戦略の立案に重点を置きます
- 財務・法務DDが「守りの評価」であるのに対し、マーケティングDDは「攻めの評価」として機能します。もっとも、リスク要因の洗い出しも重要な要素であり、“攻め”と“守り”の両面から評価する姿勢が求められます
- 数値化されていない顧客ロイヤルティやブランド価値、市場でのポジショニングといった定性的な要素を可視化します
マーケティングデューデリジェンスの目的
マーケティングデューデリジェンスの最大の目的は、買収対象企業の「市場価値」と「成長ポテンシャル」を可視化することです。
財務諸表上の売上や利益は過去の結果であり、将来の成長性を保証するものではありません。マーケティングデューデリジェンスでは、以下のような視点から企業の真の価値を評価します。
- 市場の成長性や将来性の分析
- 競合環境における対象企業のポジショニングの明確化
- 顧客基盤の質の詳細な分析
市場の成長性分析
対象企業が属する市場の成長性や将来性を分析します。市場そのものが縮小傾向にあれば、いくら企業が優れていても成長には限界があります。逆に、成長市場であれば投資リターンが期待できますが、競争環境や規制動向によっては成長余地が制約される場合もあります。
競合ポジショニング
競合環境における対象企業のポジショニングを明確にします。強固な差別化要因を持ち、独自のポジションを確立している企業は、買収後も競争優位性を維持しやすくなります。
顧客基盤の評価
顧客基盤の質を詳細に分析します。売上高だけでなく、顧客のロイヤルティや生涯価値(LTV)、離反率などを評価することで、収益の持続可能性を判断できます。
マーケティングデューデリジェンスで確認すべき主な項目

マーケティングデューデリジェンスを効果的に実施するには、体系的なアプローチが必要です。市場環境から顧客基盤、製品の競争力まで、多角的な視点で対象企業を評価することで、投資判断に必要な情報を網羅的に収集できます。
市場環境分析
市場環境分析では、対象企業が属する市場の現状と将来性を評価します。以下の要素を詳細に検討します。
- 市場規模の現状と今後の成長予測(年平均成長率CAGR)
- 市場のライフサイクル段階(導入期・成長期・成熟期・衰退期)の見極め
- 技術革新や規制変更、消費者行動の変化などのトレンド分析
- デジタル化やサステナビリティといったメガトレンドの影響評価
競合分析
競合分析では、対象企業が競争環境の中でどのようなポジションにあるかを明らかにします。分析のポイントは以下の通りです。
- 主要競合企業の特定と市場シェア、強み・弱みの比較
- 価格帯、製品ラインナップ、販売チャネル、マーケティング手法の分析
- 対象企業の差別化要因と競合優位性の評価
- 新規参入者や代替品の脅威の検討
- 参入障壁の高さと競争環境の変化予測
顧客分析
顧客分析は、マーケティングデューデリジェンスの中核となる項目です。対象企業の売上を支える顧客基盤の質を詳細に評価します。
- 顧客構成の分析(上位顧客への依存度、セグメント別構成)
- 顧客生涯価値(LTV)の算出と評価
- 顧客離反率(チャーンレート)や契約継続率や顧客シェアなどBtoB特有の指標も分析
- 顧客満足度やNPS(ネット・プロモーター・スコア)の評価
- 顧客ロイヤルティの実態把握
製品・サービス分析
製品・サービス分析では、対象企業が提供する価値の競争力を評価します。重要な分析項目は以下の通りです。
- 製品・サービスのラインナップと売上構成比、利益率、成長率
- 製品の差別化要因(技術的優位性、品質、価格競争力、ブランド力)
- 新製品開発のパイプラインと研究開発体制
- 製品ライフサイクル上の位置とリニューアル計画
ブランド・チャネル分析
ブランド・チャネル分析では、対象企業の市場での認知度と顧客へのリーチ力を評価します。分析の焦点は以下の要素です。
- ブランド認知度の定量的測定とターゲット市場での浸透度
- ブランドイメージやブランド連想の調査
- 営業チャネルの構成(直販、代理店、オンライン、小売店)
- 各チャネルの収益性と成長性、依存度リスク
- デジタルマーケティングの取り組み状況と効果
リスク要因
リスク要因の分析では、買収後に企業価値を毀損する可能性のある要素を洗い出します。主なリスクカテゴリーは以下の通りです。
- 参入障壁の高さと新規競合の参入リスク
- 価格競争の激しさとコモディティ化リスク
- 規制リスク(業界特有の規制、法規制変更、環境規制)
- サプライチェーンリスクと技術革新による陳腐化リスク
- 主要人材の流出リスク
対象企業の市場性や成長ポテンシャルをより正確に把握したい場合は、
目的に応じた調査設計からサポートいたします。
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マーケティングデューデリジェンスの進め方

マーケティングデューデリジェンスを成功させるには、明確なプロセスに沿って体系的に進めることが重要です。調査の目的設定から、データ収集、分析、そして投資判断への活用まで、各ステップで適切な手法を選択し、実行することで、精度の高い評価が可能になります。
ステップ1. 調査設計
マーケティングデューデリジェンスの第一歩は、調査設計です。何のために調査を行うのか、どこまでの範囲を対象とするのかを明確に定義します。
投資目的によって、重点的に調査すべき項目は異なります。既存事業の拡大を目的とした買収であれば、顧客基盤の相乗効果や販売チャネルの統合可能性に焦点を当てます。新規市場への参入が目的であれば、市場環境分析や競合分析の比重が高まります。
ステップ2. 定量データ収集
調査設計が完了したら、定量データの収集を開始します。市場データ、顧客データ、競合データなど、数値化された情報を体系的に整理します。
収集すべきデータの種類と活用方法を以下に示します。
- 市場データ:業界レポート、統計資料、調査会社データの活用
- 顧客データ:販売データやCRMデータの分析、コホート分析の実施
- 競合データ:公開情報や業界データベースを活用した市場シェア分析
- 価格比較とプロモーション活動の分析
ステップ3. 定性調査
定量データだけでは見えない現場の実態や顧客の本音を把握するために、定性調査を実施します。顧客、取引先、社内の関係者へのヒアリングを通じて、数字の背景にある要因を深く理解します。
効果的なヒアリング設計のポイントを以下に示します。
- 顧客ヒアリング:製品選択理由、満足・不満点、競合比較評価
- 取引先ヒアリング:取引関係の安定性、業界内評判、協力関係見通し
- 社内ヒアリング:市場動向、顧客ニーズ変化、競合動向の生情報
ステップ4. インサイト抽出とレポーティング
収集した定量データと定性情報を統合し、投資判断に資するインサイトを抽出します。単なるデータの羅列ではなく、そこから導き出される戦略的な示唆をまとめることが重要です。
分析の際には、SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威)のフレームワークを活用し、対象企業の現状を整理します。また、買収後のシナジー効果や成長機会を具体的に特定し、その実現可能性を評価します。事業計画(BP)の前提妥当性やシナジー実現可能性も併せて検証し、評価額に反映します。
ステップ5. 投資判断・PMI(統合フェーズ)への活用
マーケティングデューデリジェンスの成果は、投資判断の材料としてだけでなく、買収後の統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)にも活用されます。
投資判断においては、対象企業の適正な評価額を算定する根拠として活用し、買収後のPMIフェーズでは、デューデリジェンスで特定した成長機会やシナジー効果を実現するための具体的なアクションプランを策定します。
実施時の課題とよくある失敗

マーケティングデューデリジェンスの重要性は理解されていても、実務では様々な課題や失敗が発生します。これらを事前に把握し、適切な対策を講じることで、デューデリジェンスの質を高めることができます。
営業資料や既存データの鵜呑み
マーケティングデューデリジェンスにおける最も典型的な失敗は、対象企業が提供する営業資料や既存データをそのまま信じてしまうことです。
売り手側が提示する資料は、当然ながら企業を良く見せるために作成されています。市場シェアや顧客満足度などの数字は、都合の良い調査結果や限定的なデータに基づいている可能性があります。第三者機関のデータと照合し、前提条件や算出方法を確認することが不可欠です。
現場ヒアリングの不足による実態との乖離
データ分析だけに頼り、現場の声を十分に聞かないことも、よくある失敗パターンです。数字は過去の結果を示すものであり、現在進行形で起きている変化や、現場が感じている危機感は、ヒアリングを通じてしか把握できません。
経営陣だけでなく、中間管理職や現場担当者からも意見を聞くことが重要です。複数の階層からヒアリングすることで、組織全体の実態がより正確に把握できます。
マーケティングの専門家が関与していない
マーケティングデューデリジェンスでは、財務や法務のデューデリジェンスとは異なる専門性が求められます。しかし、実務では財務担当者や経営企画部門だけでデューデリジェンスを進めてしまい、マーケティングの専門家が関与していないケースが少なくありません。
マーケティング領域の評価には、市場分析、顧客行動分析、ブランド評価、競合戦略分析など、専門的な知識とフレームワークが必要です。対象企業の属する業界に精通したマーケティング専門家を関与させることで、より深い洞察が得られます。
定性情報を定量化できず、判断が曖昧になる
現場ヒアリングなどで得られた定性情報は貴重ですが、それを適切に構造化・定量化できないと、投資判断の材料として活用できません。
定性情報を定量化するためには、適切なフレームワークとスコアリング手法が必要です。顧客ヒアリングで得られた意見を「製品品質」「価格競争力」「アフターサービス」などの評価軸ごとにスコア化し、リスク要因についても発生確率と影響度をマトリクスで整理します。
NoSHAPEの支援事例紹介

NoSHAPEでは、BtoBマーケティング支援で培った幅広い領域の知見を活かし、マーケティングデューデリジェンスをトータルで支援しています。
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数字と感覚の両面から投資判断を支援するデューデリジェンス
ある製造業の企業様がサービス業への新規参入を目的とした買収を検討された際、NoSHAPEがマーケティングデューデリジェンスを支援しました。
アプローチ
定量データとして顧客別の売上推移、契約継続率、サービス別の収益性を詳細に分析し、同時に主要顧客へのインタビューを実施してサービス品質や競合との比較評価を定性的に把握しました。
成果
優良な顧客基盤を持つ一方で、デジタル化対応の遅れが今後の成長制約となる可能性を明らかにし、買収価格の妥当性評価と買収後のデジタルトランスフォーメーション計画を提案しました。
お客様からは、「財務データだけでは見えなかった現場の実態や、顧客の本音が把握できた」「買収後の具体的な成長戦略まで描けたことで、自信を持って投資判断ができた」との評価をいただきました。
マーケティングデューデリジェンスを成功させる3つのポイント

マーケティングデューデリジェンスの成否は、いくつかの重要な要素によって左右されます。実務で蓄積された知見から、特に重要な3つのポイントを解説します。
ポイント1. マーケティング領域の専門家を早期に関与させる
マーケティングデューデリジェンスの最も重要な成功要因は、マーケティング領域の専門家を案件の早期段階から関与させることです。
専門家を早期に関与させることで得られるメリットを以下に示します。
- 調査の初期段階から適切な仮説を立て、効率的に調査を進められる
- 財務データや営業資料をマーケティング的な視点で数字の裏側を読み解ける
- 社外のマーケティングコンサルタントの客観的視点と業界横断的知見を活用できる
- 社内では気づきにくい問題点や機会を指摘してもらえる
ポイント2. ファクトベースと現場感を両立させる
マーケティングデューデリジェンスを成功させるには、客観的なデータ分析(ファクトベース)と、現場の生の声を聞くこと(現場感)の両立が不可欠です。
ファクトベースのアプローチでは、市場データ、顧客データ、競合データなどを定量的に分析します。現場感を得るためには、顧客、取引先、社内の様々な階層の担当者へのヒアリングが重要です。オープンな質問を心がけ、複数の関係者から意見を集めることで、多角的に実態を把握できます。
ポイント3. 買収後の成長戦略(PMI)と一体で設計する
マーケティングデューデリジェンスは、投資判断のためだけのものではありません。買収後の統合プロセス(PMI)と成長戦略の基盤としても極めて重要です。
デューデリジェンスの段階から、買収後の成長シナリオを具体的に描くことが重要です。両社の顧客基盤統合によるクロスセル機会や、販売チャネルの相互活用、製品ラインナップ統合による相乗効果を検証し、実現可能性と効果を定量的に評価します。
まとめ|デューデリジェンスにマーケティング視点を

財務データだけでは見えない「成長の余地」や「リスク要因」を明らかにするのがマーケティングデューデリジェンスです。
M&Aや事業投資において、対象企業の過去の業績を評価するだけでは不十分です。その企業が属する市場の将来性、競合環境における優位性、顧客基盤の質、そしてブランド価値といったマーケティング領域の要素こそが、買収後の成長を左右します。とりわけ、事業計画の実現可能性を検証する「コマーシャルDD」としての視点が、投資成功の鍵を握ります。
マーケティングデューデリジェンスを通じて、数字に表れにくい企業の真の価値を可視化することで、適切な投資判断が可能になります。また、買収後の統合プロセスにおいても、デューデリジェンスで得られた知見が成長戦略の基盤となります。
NoSHAPEのマーケティングデューデリジェンス支援
NoSHAPEでは、BtoBマーケティング支援の豊富な実績と、あらゆるマーケティング領域に精通した専門性を活かし、企業のマーケティングデューデリジェンスを包括的に支援しています。
市場環境の分析から顧客基盤の評価、競合戦略の検証まで、投資判断に直結する情報を提供し、デューデリジェンスから成長戦略の実行支援まで一貫したサポートを提供することで、お客様の投資成果の最大化に貢献します。
M&Aや事業投資を検討されている企業の経営層、マーケティング責任者の皆様、マーケティングデューデリジェンスについてのご相談は、ぜひNoSHAPEまでお問い合わせください。
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よくある質問(FAQ)
マーケティングデューデリジェンスに関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。実施を検討される際の参考にしていただければ幸いです。
Q1. マーケティングデューデリジェンスと財務デューデリジェンスの違いは?
財務DDが「過去の数字」を検証するのに対し、マーケティングDDは「将来の成長可能性」を評価する点が異なります。財務DDでは財務諸表や収益性を精査しますが、マーケティングDDでは市場環境、顧客基盤の質、競合優位性など、将来の成長を左右する要素を多角的に分析します。
Q2. どんな企業がマーケティングデューデリジェンスを実施すべきですか?
M&Aや新規事業投資を検討している企業、あるいは自社の事業価値を客観的に見直したい企業におすすめです。特に、買収対象企業の成長ポテンシャルを正確に評価したい場合や、買収後の統合戦略を具体的に立案したい場合に有効です。売上2億円以上の中小企業から大手企業まで、幅広い規模の企業が活用しています。
Q3. デューデリジェンスはどの段階で行うべきですか?
買収・投資の意思決定前、すなわちLOI(基本合意)前後で実施するのが一般的です。この段階でマーケティングデューデリジェンスを行うことで、買収価格の妥当性を検証し、リスク要因を事前に把握できます。また、早期にマーケティング専門家を関与させることで、より深い洞察が得られ、投資判断の精度が高まります。
株式会社NoSHAPE コンテンツマーケティング事業部 責任者。大手企業でWebサービス開発・マーケティングを経て、事業会社でマネージャー/責任者として事業推進やデジタルマーケティングを担当。これまでに100サイト以上・5,000本超の記事制作に関わり、BtoB・BtoCを問わずSEO・コンテンツマーケティング全般を支援している。
株式会社NoSHAPE
当社には、代表の鬼石を筆頭にBtoBマーケティングに精通したディレクターたちが在籍しております。代表の鬼石はKAIZEN PLATFORM出身。BtoBマーケティングのコンサルタントを10社以上手がけ、成功に導いております。
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